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東京地方裁判所 平成8年(ワ)22305号 判決 1997年6月26日

主文

一  被告は、原告に対し、金五一三万〇一九六円並びにうち金二万九四七〇円に対する平成二年六月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成二年七月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成二年八月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成二年九月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成二年一〇月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成二年一一月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成二年一二月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成三年一月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成三年二月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成三年三月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成三年四月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成三年五月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成三年六月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成三年七月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成三年八月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成三年九月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成三年一〇月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成三年一一月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成三年一二月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成四年一月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成四年二月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成四年三月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成四年四月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成四年五月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成四年六月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成四年七月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成四年八月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成四年九月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成四年一〇月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成四年一一月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成四年一二月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成五年一月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成五年二月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成五年三月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成五年四月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成五年五月一日から、うち金五万四三四〇円に対する平成五年六月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成五年七月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成五年八月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成五年九月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成五年一〇月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成五年一一月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成五年一二月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成六年一月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成六年二月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成六年三月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成六年四月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成六年五月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成六年六月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成六年七月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成六年八月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成六年九月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成六年一〇月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成六年一一月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成六年一二月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成七年一月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成七年二月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成七年三月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成七年四月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成七年五月一日から、うち金六万二一四〇円に対する平成七年六月一日から、うち金六万七一四〇円に対する平成七年七月一日から、うち金六万七一四〇円に対する平成七年八月一日から、うち金六万七一四〇円に対する平成七年九月一日から、うち金六万七一四〇円に対する平成七年一〇月一日から、うち金六万七一四〇円に対する平成七年一一月一日から、うち金六万七一四〇円に対する平成七年一二月一日から、うち金六万七一四〇円に対する平成八年一月一日から、うち金六万七一四〇円に対する平成八年二月一日から、うち金六万七一四〇円に対する平成八年三月一日から、うち金六万七一四〇円に対する平成八年四月一日から、うち金八万七〇二〇円に対する平成八年五月一日から及びうち金八万七〇二〇円に対する平成八年六月一日から平成八年一〇月三一日まで年一四パーセントの割合による各金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、一項にかぎり仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

被告は原告に対し、七七九万六六三七円を支払え。

第二  事案の概要

本件は、区分所有者全員の建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体である原告が、区分所有者である被告に対し、規約に定められた、管理費、修繕積立金、北側敷地の専用使用料及び看板使用料並びに右各金員の遅延損害金並びに本訴の弁護士費用の支払いを求める事案である。

一  争いのない事実及び証拠により認定できる事実

1 原告は、東京都世田谷区《番地略》所在の九階建ての一棟の建物である藤和若林コープ(以下「本件マンション」という。)の区分所有者全員により構成される団体である。(争いがない。)

2 本件マンション一〇一号室は、昭和六二年五月から訴外株式会社マサオ薬品(以下「訴外会社」という。)の所有であったが、被告は、平成八年六月一一日、根抵当権実行により競売により一〇一号室を取得し、本件マンションの区分所有者となった。(争いがない)。

一〇一号室はメゾネットタイプの店舗であったが、被告は、平成八年七月一六日、一〇一号室の一階部分と二階部分を区分して独立させ、一階部分を一〇一号室、二階部分を二〇〇号室として各々所有権の目的とすることができるようにした。(争いがない。)

被告は、平成八年七月二四日、二〇〇号室を、訴外船越さかゑ及び船越一に対し売り渡した。(争いがない。)

3(一) 本件マンションは昭和六〇年一月に新築され、区分所有者全員の書面による合意により、昭和六〇年一月二六日、藤和若林コープ管理規約が設定され、右規約において、区分所有者は、建物の敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため管理費及び修繕積立金を原告に支払うこと、一〇一号室の管理費は一か月四万三二〇〇円、修繕積立金は四三二〇円とすること、外壁等の建物構造部分を共用部分とすること、一〇一号室、一〇二号室及び一〇三号室の区分所有者は、店舗用電飾看板を設置して各室の出入口上部外壁面を利用できる専用使用権を有することを承認し、右専用使用料(以下「看板使用料」という。)を一か月一〇〇〇円とすること、区分所有者は、管理費、修繕積立金、専用使用料、その他敷地及び共用部分等に係わる使用料は当月分を前月二七日までに原告に対し支払うこと、区分所有者が右支払いを怠ったときは年一四パーセントの割合による遅延損害金を支払うことが定められた。

(二) (一)記載の規約の設定と同時に、区分所有者は、一〇一号室の区分所有者は、一〇一号室北側敷地を利用する専用使用権を有すること及び右専用使用料(以下「敷地使用料」という。)を一か月二五〇〇円とすることを規約に追加設定することを、集会において決議した。

(三) 区分所有者は、平成五年四月二五日の集会において、平成五年七月一日からの一〇一号室の管理費を一か月四万九七〇〇円として、平成七年三月一九日の集会において、平成七年七月一日からの一〇一号室の管理費を一か月五万四七〇〇円として、平成元年三月一九日の集会において、平成元年七月一日からの一〇一号室の修繕積立金を一か月八六四〇円として、平成五年四月二五日の集会において、平成五年七月一日からの一〇一号室の修繕積立金を一か月九九四〇円として、平成八年三月三一日の集会において、平成八年五月一日からの一〇一号室の修繕積立金を一か月二万九八二〇円として、平成八年九月一日の集会において、区分後の一〇一号室の管理費を一か月四万二九三〇円、修繕積立金を一か月二万三四一〇円、区分後の二〇〇号室の管理費を一か月一万一七七〇円、修繕積立金を一か月六四一〇円として、いずれも規約を変更することを決議した。

(四) 訴外会社及び被告は、一〇一号室の平成二年六月分の管理費のうち二万九四七〇円、一〇一号室の平成二年七月分から平成五年六月分まで三六月分の一か月四万三二〇〇円の管理費合計一五五万五二〇〇円、一〇一号室の平成五年七月分から平成七年六月分まで二四月分の一か月四万九七〇〇円の管理費合計一一九万二八〇〇円、一〇一号室の平成七年七月分から平成八年六月分まで一二月分の一か月五万四七〇〇円の管理費合計六五万六四〇〇円、一〇一号室の平成八年七月一日から平成八年七月一五日まで一五日間の管理費二万六四六七円(54700円×15日÷31日=(約)26467円)、区分後の一〇一号室の平成八年七月一六日から平成八年七月三一日まで一六日間の管理費二万二一五七円(42930円×16日÷31日=(約)22157円)、区分後の一〇一号室の平成八年八月分から平成八年一一月分まで四月分の一か月四万二九三〇円の管理費合計一七万一七二〇円、区分後の二〇〇号室の平成八年七月一六日から平成八年七月二三日まで八日間の管理費三〇三七円(11770円×8日÷31日=(約)3037円)、一〇一号室の平成二年七月分から平成五年六月分まで三六月分の一か月八六四〇円の修繕積立金合計三一万一〇四〇円、一〇一号室の平成五年七月分から平成八年四月分まで三四月分の一か月九九四〇円の修繕積立金合計三三万七九六〇円、一〇一号室の平成八年五月分から平成八年六月分までの二月分の一か月二万九八二〇円の修繕積立金合計五万九六四〇円、一〇一号室の平成八年七月一日から平成八年七月一五日まで一五日間の修繕積立金一万四四二九円(29820円×15日÷31日=(約)14429円)、区分後の一〇一号室の平成八年七月一六日から平成八年七月三一日まで一六日間の修繕積立金一万二〇八二円(23410円×16日÷31日=(約)12082円)、区分後の一〇一号室の平成八年八月から平成八年一一月分まで四月分の一か月二万三四一〇円の修繕積立金合計九万三六四〇円、区分後の二〇〇号室の平成八年七月一六日から平成八年七月二三日までの八日間の管理費一六五四円(6410円×8日÷31日=(約)1654円)、平成二年七月分から平成八年一一月分まで七七月分の一か月二五〇〇円の一〇一号室の北側敷地の敷地使用料一九万二五〇〇円、平成二年七月分から平成八年一一月分まで七七月分の一か月一〇〇〇円の看板使用料七万七〇〇〇円を原告に対し支払っていない。((一)ないし(四)項で認定した事実)

二  争点

1 原告は、訴外会社に対する平成八年六月分までの管理費、修繕積立金、敷地使用料及び看板使用料を、一〇一号室を根抵当権実行による競売により取得した被告に対し請求できるか。

被告は、この点につき、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)八条は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する区分所有者の債権について、区分所有者は特定承継人に対しても行うことができる旨定められているが、右八条にいう特定承継人は、売買、贈与等の任意譲渡による承継人のみを意味するものであり、担保権の実行としての競売による買受人を含まないと解釈すべきであると主張する。

2 原告が、訴外会社に対する管理費、修繕積立金、敷地使用料及び看板使用料につき債権を放棄した事実があるか。

被告は、この点につき、一〇一号室の競売手続きにおいて原告が先取特権を有するにかかわらず債権届出をしなかったことから、債権を放棄したものであると主張する。

3 被告は、原告に対する平成八年七月分以降の敷地使用料及び看板使用料を支払う義務があるか。

被告は、この点につき、右敷地使用料及び看板使用料の趣旨を被告は知らないし、一〇一号室の北側敷地及び看板を被告は使用していないと主張する。

4 原告は、被告に対し、本訴の弁護士費用を請求できるか。

被告は、この点につき、集会においてなされた、管理費等の支払いを求めて訴訟を提起したときは滞納者に対し訴訟費用の他弁護士費用を請求できるとの規約を設定する決議は、規約の変更であるのに、右決議は区分所有者及び議決権の四分の三以上の多数による決議によってなされていないと主張する。

5 原告が、被告に対し請求できる管理費、修繕積立金、敷地使用料及び看板使用料並びに本訴の弁護士費用の額

なお、原告は、被告に対し、一〇一号室の平成二年六月分から平成八年一一月分の管理費及び二〇〇号室の平成八年七月一六日から平成八年七月二三日までの管理費合計四二五万三八二五円、一〇一号室の平成二年七月分から平成八年一一月分の修繕積立金及び二〇〇号室の平成八年七月一六日から平成八年七月二三日分までの修繕積立金合計八三万〇五五〇円、一〇一号室の平成二年七月分から平成八年一一月分までの敷地使用料一九万二五〇〇円、一〇一号室の平成二年七月分から平成八年一一月分までの看板使用料七万七〇〇〇円、平成二年六月分から平成八年六月分までの未払管理費、未払修繕積立金、未払敷地使用料及び未払看板使用料の各支払期後である各月一日から平成八年一〇月三一日まで年一四パーセントの割合による遅延損害金として合計一九九万二七六二円並びに弁護士に支払った着手金四五万円を請求している。原告の被告に対する本訴における請求は右金員の合計額である七七九万六六三七円である。

第三  争点に対する当裁判所の判断

一  争点1について

1 まず、被告は、区分所有法八条にいう特定承継人には、強制執行、担保権の実行としての競売による買受人を含まないと解釈すべきと主張するのでこの点につき判断する。

特定承継人との用語は、他人の権利義務を一括して承継する包括承継に対する語で他人の権利を個々的に取得することを意味し、通例、国家機関による強制的な換価手続ではあるものの代金と引換えに債務者(担保提供者)から所有権が買受人に移転する手続きである強制執行、担保権の実行としての競売による買受人も特定承継人に包含される。したがって、もし、区分所有法八条の特定承継人に、強制執行、担保権の実行としての競売による買受人を包含しないとするならば、極めて異例な用語の使用法ということになる。

また、区分所有法八条が、区分所有法七条に定める規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する区分所有者の債権につき特定承継人に対しても行うことができると規定したのは、建物等の適正な維持管理のために最も確保される必要があるのは、区分所有における団体的管理のための経費にかかる団体債務の履行であり、その確保のために特定承継人の責任を定めたものと解釈するのが相当である。団体的債務の履行が滞っている区分所有者が他の債権者から強制執行、担保権の実行としての競売を申し立てられるのは、通常よくあることであって、この場合に、右競売による買受人に団体的債務が承継されないなら、区分所有法八条による団体的債務の履行の確保は著しく実効性のないものになってしまい団体的債務の履行の確保という立法趣旨に著しく反することになる。

更に、区分所有法八条が、特定承継人の責任を定めたのは、特定の区分所有者が管理費、修繕積立金等の経費にかかる債務を支払わないまま区分所有権を譲渡した場合、他の区分所有者が出捐したこれらの経費は、既にその目的のために費消されていれば建物等の全体の価値に、すなわち債務の履行をしない区分所有者の有する区分所有権の価値にも化体しているのであるし、未だ費消されずにいればそれは団体的に帰属する財産を構成しているのであるから、区分所有者の特定承継人がその支払責任を負うのが相当であるからであるとの趣旨とも理解されるが、右趣旨からすれば、贈与、売買等の契約による譲受人と強制執行、担保権の実行として競売による買受人とを別異に扱う理由はない。

したがって、区分所有法八条の特定承継人には、被告のような強制執行、担保権の実行としての競売による買受人を当然包含するものと解釈すべきである。

なお、被告は、民事執行法五九条は削除主義を定めており、区分所有法八条により買受人が債務を承継すると解釈するならば、右削除主義を定めた民事執行法五九条と矛盾すると主張するが、民事執行法は、担保権、用益権等の負担となる権利が不動産上に存する場合、これらの権利は売却によりすべて消滅するものとして買受人に負担のない不動産を取得させるという削除主義のみを採用し、負担となる権利が付着したままの不動産を買受人に取得させる引受主義を全く採用しなかったものではなく、民事執行法は、競売不動産につき、担保権についてはその種類に応じて削除主義を原則として引受主義を併用し、用益権については、それを差押債権者等に対抗できるか否かによって引受となるか消滅となるかを決しているとみるべきであり、被告の主張するように民事執行法五九条が削除主義のみを採用した規定とは到底解釈できず、被告の主張が失当であることは言うまでもない。

更に、被告は、日本国の民事法において、権利義務の主体である人または法人が負担する債務は、その者の動産、不動産等の積極財産につき抵当権あるいは先取特権等の担保設定をしてその引当にするか、そうでなければ強制競売の対象物件としてその引当にするかに尽きるとされているのであって、その者の資産が競売によって権利移転が行われる場合に、その資産の特定の後継人がその前所有者の人的債務を負担させられる法理はないと主張するが、区分所有法八条のもとになった民法二五四条には「共有者ノ一人カ共有物ニ付キ他ノ共有者ニ対して有スル債権ハ其特定承継人ニ対シテモ之ヲ行フコトヲ得」と規定されているし、区分所有法八条により特定承継人が責任を負う債務は、規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して負う債務等であり、被告の主張するような単純な人的債務ではないことは明らかであり、この点においても、被告の主張は失当である。

2(一) 区分所有法四六条一項は、規約及び集会の決議は、区分所有者の特定承継人に対しても、その効力を生ずると規定されており、右特定承継人は1項で区分所有法八条につき述べたのと同様に、被告のような競売による買受人も包含するものと解される。

本件マンションの規約の三〇条において、第二・一3(一)のとおり、管理費及び修繕積立金を原告に支払うことが規定され、規約の三一条においては、原告が管理費及び修繕積立金について有する債権は、区分所有者の特定承継人に対しても行うことができると規定されている。

したがって、被告が、第二・一3(一)及び(三)のとおり、規約により定められた訴外会社の原告に対する管理費及び修繕積立金の支払義務につき責任を負うことは言うまでもない。

(二) 《証拠略》によれば、本件マンションの規約及び第二・一3(二)のとおりの規約の追加設定の決議により、一〇一号室の区分所有者は、一〇一号室北側敷地を排他的に使用する専用使用権を有し、期間は区分建物存続中と定められていること、右専用使用権の対象たる北側敷地は、一階である一〇一号室の北側バルコニーに面した本件マンションの北側外壁から北側隣地境界線までの間の幅約二メートルの土地であることが認められる。

本件マンションの規約には、管理費及び修繕積立金と異なり、右専用使用料につき規約の三一条のような区分所有者の特定承継人に対して債権を行うことができる旨の規定はないが、右認定事実からすれば、一〇一号室の北側敷地の専用使用権は、一〇一号室の区分所有権に付従する権利として区分所有権と一体的に譲渡されることが規約上予定されているとみるべきである。

したがって、本件マンションの規約は、規約に基づく他の区分所有者に対して有する債権として一〇一号室の北側土地の専用使用料請求権を、区分所有法七条及び八条に基づき、区分所有者が特定承継人に対して行うことを予定しているものと解されるので、被告は、訴外会社の原告に対する敷地使用料の支払義務につき責任を負うと解するべきである。

(三) 本件マンションの規約の別表第4には、一〇一号室、一〇二号室及び一〇三号室の区分所有者は、店舗用電飾看板を設置して各室の出入口上部外壁面を使用できる専用使用権を有し、期間は契約によると規定されている。右規定からすると店舗として使用されることが規約により定められている一〇一号室、一〇二号室及び一〇三号室の区分所有者が店舗用看板を各出入口上部外壁面に設置して、外壁面を使用することの使用料として看板使用料が規定されたことが推認される。

右規約によれば、右専用使用権の存続期間は、一〇一号室、一〇二号室及び一〇三号室の各区分所有者と原告間の契約によるものであることが認められるが、証拠によっても、一〇一号室の区分所有者であった訴外会社と原告との間で右専用使用権の期間につきいかなる契約が締結されてたいのか全く明らかではない。原告の看板使用料についての請求は、訴外会社の右専用使用権が平成二年七月以降存続していたことを前提とするものであるが、訴外会社の右専用使用権が平成二年七月以降存続していたことを認めるに足りる証拠はないものと言わざるを得ない。

更に、規約により右専用使用権の期間を契約によると規定していることからみて、一〇一号室、一〇二号室及び一〇三号室の各区分所有者が店舗用看板を出入口上部外壁に設置しないときには、右各区分所有者は右専用使用権を有さないものとして看板使用料の支払をしなくてよいことが予定されているものと解される。したがって、本件マンションの規約は、右専用使用権につき、一〇一号室の区分所有権に付従する権利として区分所有権と一体的に譲渡されることを必ずしも予定しておらず、むしろ各区分所有者が店舗用看板を出入口上部外壁に設置することを希望するときに、原告との間で右専用使用権を設定する契約を締結することにより各区分所有者に右専用使用権の効力が発生することを予定しているものと思料される。そうすると、本件マンションの規約は、区分所有法七条及び八条に基づき区分所有者が特定承継人に対して看板使用料請求権を行うことを予定していないと考える余地がある。

したがって、いずれにしても、被告は、訴外会社の原告に対する看板使用料の支払義務につき責任を負うと認めるに足りないと言わざるを得ない。なお、本件マンションの規約には、管理費及び修繕積立金と異なり、専用使用料につき規約の三一条のような区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる旨の規定はない。

3 したがって、原告は、訴外会社に対する平成八年六月分までの管理費、修繕積立金及び敷地使用料につき、被告に対しても請求することが認められるが、訴外会社に対する平成八年六月分までの看板使用料については被告に対し請求できるとは認め難い。

二  争点2について

被告は、一〇一号室の根抵当権の実行による競売手続において、原告の訴外会社に対する管理費、修繕積立金、敷地使用料及び看板使用料債権につき区分所有法七条に基づく先取特権を有していたにもかかわらず、原告が債権届出をしなかったから、原告は右債権を放棄したものであると主張する。右被告の主張における債権届出が何を意味するのかは明らかではないが、《証拠略》によれば、原告は、先取特権を有する債権者として、自ら競売申立あるいは売却代金から配当を受けようとする具体的な法的手続きをしたことはないことは認められるが、右認定事実から原告が訴外会社に対する管理費、修繕積立金及び敷地使用料債権を黙示に免除したとは到底推認することはできず、他に被告の主張を認めるに足りる証拠は全くない。

したがって、被告の主張は採用できない。

三  争点3について

被告が一〇一号室の区分所有権を取得した後である平成八年七月分以降の敷地使用料については、本件マンションの規約が、北側敷地の専用使用権につき一2(二)項記載のとおり、一〇一号室の区分所有権に付従する権利として区分所有権と一体的に譲渡されることを予定していると解されるので、被告がたとえ専用使用権の対象たる北側敷地を現実に使用していなかったとしても平成八年七月分以降の右敷地使用料につき支払義務を負うものとするのが相当である。

被告が一〇一号室の区分所有権を取得した後である平成八年七月分以降の看板使用料については、被告と原告間で看板設置のために出入口上部外壁面を使用する専用使用権の期間につき契約が締結された事実は証拠によっても窺われず、また一2(三)項記載のとおり、本件マンションの規約は右専用使用権を一〇一号室の区分所有権に付従する権利として区分所有権と一体的に譲渡される権利とは予定していないのではないかとみられること、被告は一〇一号室の区分所有権を取得した以降、被告が出入口上部外壁面に看板を設置した事実が証拠によっても窺われないことからすれば、被告には平成八年七月分以降の看板使用料につき支払義務はないとするのが相当である。

四  争点4について

《証拠略》によれば、平成五年四月二五日の集会において、管理費等の支払を求めて訴訟を提起したときは滞納者に対し訴訟費用の他弁護士費用を請求することができるとする規定を規約に設定する決議をしたこと、右決議は、区分所有者及び議決権の四分の三以上の多数による決議によるものであったこと、原告は本訴提起のため弁護士に着手金として四五万円を支払ったことが認められる。

したがって、原告は、被告に対し右四五万円を請求できる。

五  争点5について

一ないし三項によれば、被告は原告に対し、第二・一3(四)項記載の金員のうち、看板使用料を除く管理費、修繕積立金及び敷地使用料の全額である四六八万〇一九六円の支払義務が認められ、四項によれば、弁護士費用として四五万円の支払義務が認められることになる。

そして、管理費、修繕積立金及び敷地使用料については、各月分の支払期(前月二七日)の後である各月一日から平成八年一〇月三一日まで年一四パーセントの割合による遅延損害金の支払義務が認められる。

六  したがって、原告の請求は、五項記載の範囲で理由があるので、これを認容し、その余の請求を棄却することとする。

(裁判官 宮武 康)

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